お金の使い方

ライターをしていると、各所から色んな依頼が降ってきます

「ブラック企業について何か書いて頂けませんか?」

初めてコンタクトを頂いたクライアントからの依頼がコレでした。

 

こういう時・・・書き手の目線で一番気になるのは、

「この依頼主は信用できる人だろうか?」というところです。

例えば、よく耳にするような話だとは思いますが・・・

『報酬を支払わず逃げてしまうクライアント』なーんてのもいるわけです。

 

数年前、私は体を壊して会社をクビになった後

「なんとか社会復帰しなければ!」と在宅ワークで事務仕事を始めました。

 

しかしある日突然、クライアントとの連絡が突然プツッと切れて

給与未払いのまま音信不通になってしまったことがありました。

在宅仕事の闇である。

 

もちろん支払われなかったお金はツライ。そりゃぁツライ。

でも・・・人に裏切られるってことが一番メンタルにくる。

 

だから私はすぐに相手を信用はせず、新しい依頼主にいくつかの質問をしました。

「どんなメディアで書くことになるんでしょうか?」

 

「ブラック企業や過労死を防ぐ活動をするメディアです!」

そう答えた依頼主からサイトを見せてもらうと・・・

確かに依頼主の言う通りのテンションの高いメディアでした。

さらに話を詳しく伺ってみると・・・

依頼主もブラック企業と関わり死ぬほど苦しい思いをしたのだとか・・・

 

なるほどなるほど。

私もブラック企業に勤めていたから、その気持ちは痛いほどわかる。

 

どんなに小さくても、社会のためになる活動をする人ならきっと悪い人じゃない。

(よし、じゃあまず1本書いてみよう)という気持ちになりました。

何をするにも理念や信念っていうのは大事ですよね!

 

でも一つ!一つだけ!どうしても気になることがありました。

この依頼主・・・・・

報酬の話を一切してこないのです。

 

(いや・・まさか・・そんなワケが無いよな)

 

言葉に出しずらいモヤモヤが沸いてきた。

 

聞きづらい。非常に聞きずらいが、これは聞くしかない!

思い切って言葉にしてみた。

「報酬はいくらになりますでしょうか?」

 

・・・・すると、こんなような回答が返ってきました。

 

「報酬はありません!ブラック企業を撲滅するため、

世の中のためになるメディアですから!ご協力お願いします!」

大いなる矛盾を感じました。

私は「申し訳ありませんが・・」と頭を下げてお断りすることにしました。

急に話を断ってしまったので・・・

「なにか気に障ることを言いましたか?」と依頼主が言う。

 

この方は、いま自分がやろうとしていることがわかってない。

                     

「私は文章や絵を書く事で生計を立てています、

報酬が頂けない仕事はお受けすることが出来ません。」

 

そう私の意思を出来る限りわかりやすくお伝えすると・・・

 

「では、このメディアが軌道に乗った時には

いくらかの報酬をお支払いしたいと思います!」

サラッとそんなようなことを言われました。

(あっ・・知ってる、こういう人知ってる・・)

「ブラック企業で苦しんでいる人を救いたい!」と言いつつ・・・

やっていることはブラック企業の経営者と同じだ。

 

賃金未払いで逃走した在宅ワークの社長も言っていました。

「この事業が軌道に乗ったら、大きな報酬をお支払いしますよ!」

 

昔勤めていた月給5万の会社の社長も言っていました。

「いまは辛いだろうけど、頑張ったらいずれ君を経営者にしてあげるよ!」

 

そして、この依頼主はこう言っています。

「ブラック企業を無くすために、タダで記事を書いてください!

 このメディアが大きくなったら報酬を支払いますよ!」

 

同じじゃないですか?

 

それらしい夢とか理想とか目標を掲げることで、

重労働や休日や賃金の少なさを誤魔化そうとするやり口。

 

労働力を搾取するというビジネスモデル(笑)

もちろん仕事はお金だけじゃない。

やりがい、目標、夢だって大事だと思う。

 

でも仕事に対して正当な報酬は支払わなきゃいけないと思うんです。

 

「そんなこと当たり前だろ?」と100人中100人がそう思うような話なのに、

なぜかそれが出来ない経営者は山ほどいる。

この依頼主もそう。

でも、この依頼主の気持ちもわかる。

これはチョット黒くて説明しづらい話なのですが・・・

ブラック企業に関わった人間はブラック思想に染まってしまう。

私がいぜん勤めていたブラック会社には

「会社の待遇を良くしたい!会社は休みも賃金もちゃんと払うべきだ!」

と後輩や上司にも苦言を呈してくれる良い先輩が居ました。

ところが・・先輩は自分で会社を起こした途端・・・

「仲間のためにもっと頑張れよ!」

「使えないヤツに給料は出せない」

「休みなんてとれる状況じゃないだろ?」

なーんてことを言うブラック経営者に変貌してしまった。

一度染まったブラック思考からは、なかなか抜け出すことができない。

それは心の病気だから、もう自分の意思ではどうにもならないんだろう。

だからブラック企業はポコポコ増え続ける『癌』みたいなものなんだと思う。

ブラック企業を撲滅するためのブラック企業を作ってしまう。

わけのわからない話だけど・・そういうことはよくある話だと思う。

けっきょく、この新しい依頼は丁重にお断りしました。

 

この依頼主も『ブラック企業を無くすためにブラック企業を作りだした』

『搾取を無くすために搾取する』という大いなる矛盾を抱えていた。

しかし矛盾っていうのは大きければ大きいほど気づかれにくいらしい。

きっと多くのブラック企業経験者が「ブラック企業撲滅のためにタダで書いてくれ!」

と言われて、喜んで搾取されるんだろなぁ・・・

正当な報酬はちゃんと貰わなきゃいけないんだ。

 

私もブラック企業で苦しんだ人間の一人ですけれど、

「ブラック企業撲滅!」なんて過激なことは言えません・・・

 

でもせめて搾取する経営者の下では働かない。

小さいことだけど、それだけは守っていこうと思う。

 

・・・・・・

 

沖縄に移住してからは、安くて大盛り!を売りにしている飲食店をよく見かけます。

店内に入り・・・

アルバイト募集のチラシを見ると時給650円なんていう

ありえない金額を提示している店がありました。

 

そういう文言を見つけても「なんてことしてるんだ!」と文句は言わないけれど、

そういう店は2度と使いません。

 

そりゃ安くて大盛りに出来るでしょうよ・・・

その弁当は従業員の血肉を削って作られてるんですから。

・・・・でも逆に、例えば民宿に泊まった時などにサービスが良かった場合。

そこで働く人への応援と感謝の意味を込めて、

なるべく・・・わずかではありますが・・

売店で買い物をしたりして、たくさんお金を使ってあげるようにしています。

別にたいした話じゃないけれど・・

たいしたことは出来ないけれど・・・

自分がそういうお金の使い方をすることで、

ほんとチョットでも世の中が良くなったらいいなぁと思う。

 

おわり