金のある貧乏(ハルオサン家)

小学生の頃、学校が終わると毎日必ずこう声をかけられました。

「ねえ、今日遊びに行っても良い?」

「嫌だ」とも言えません。

断るに断れず・・・

「うん、いいよ」と安請け合いをしてしまう私。

何が嫌かって?

イヤな理由の一つは、家に来るのが一人や二人じゃないからです。

近所の団地に住む30名ほどの子供たちが、まるで津波の様に押し寄せます。

そしてイヤな理由の二つ目は・・・

この中に友人は一人も居ないからです。

 

彼らの目的は私じゃなく、我が家にある『最新のゲーム機』

みんなで人気の格闘ゲームをするために集まっているのです。

私は誰とも話さず、ゲームをプレイすることもなく、

ただ部屋の隅で座っているだけ。

 

人が人を呼び続け・・・我が家に来る子供は増える一方。

 

はじめて我が家を訪れた子は、子供ながらに申し訳なく思うのか?

決まって私に向かってこんなお世辞を言うのです

 

「お前の家スゲー金持ちだな!」

 

お金持ちの家・・・・

子供の目から見れば、そう見えるのかもしれない。

 

我が家には当時高価だった『最新のゲーム機器』『ゲームカセット』

ズラリズラリと並んでいましたからね。

 

家に並ぶ電化製品も最新式。なんだか高そうな車もある。

 

・・・・・だから、お金持ちの家に見えたんだと思う。

 

しかし、周りの子からは「お金持ち!」と言われるのだけれど・・・

なぜか父と母は顔を合わせるたび、こんなことを言いながら喧嘩するのです。

「お金が無い!」

うちはお金持ちなのか?それとも貧乏なのか?

私には不思議でなりませんでした。

 

しかしもちろん欲しい物など何も買ってもらえませんし・・・

食事も大半が庭の畑で自家栽培した野菜か、安くて美味しいモヤシ。

 

なかなかの貧乏ハウスだったと思う。

 

さて、これは大人になってから知ったことですが・・・

我が家の生活が貧しい原因は父の『浪費癖』にありました。

 

父は、とにかく最新の電化製品が大好きでした。

最新のゲーム機が山ほど並んでいたのも父の趣味。

 

欲しいと思ったら我慢出来ないのです。

何がなんでも買わずにはいられないのです。

 

例えば『アイフォン』が発売した時もそう、

当時かなり珍しく入手困難で高価だったアイフォンが

なぜか自宅の机の上に8台ほど並んでいたこともありました。

たぶん、新しいモノが発売するたびに買い集めているんだろう。

 

父は機械オタク?って言うんですかね??

ちょっと・・その趣味は常識の範囲を超えておりました。

 

なので貧しい生活を支えるために母は近所の町工場で正社員になり、

外国人労働者に混じって月に12万ほど?という

超低賃金で家計を支え続けました。

「なんで私がシングルマザーとか〇〇人達と働かなきゃいけないのよ!」

と周りを理不尽に見下し愚痴る母。

 

しかし父も母もハイ!と返事が出来れば入れる超底辺高校卒なので、

足し算や引き算すら出来るか怪しいレベル・・・

(わたしも同じレベルです)

 

色んな意味でアホすぎて、仕事を選べなかったんだと思う。

 

そんな生活が続いた高校生のある日、

いつものように顔を合わせた父と母が居間でケンカをしておりました。

私は関わらないように、そっ~~と自分の部屋に向かいます。

しかし・・・その大声で罵り合うケンカの内容を聞いて思わず足を止めました。

父が「修学旅行費なんて出せない!」と言って

母が「〇してやる!」と激怒していたからです。

 

(私の修学旅行費のことで父と母がケンカしている・・・?)

 

すぐにソソっと父と母はの間に入って言いました

「いやいや、修学旅行なんて行かなくて良いよ~」ってね。

 

まぁ私としては・・・貧しい我が家で高校に行かせてもらえただけで充分。

もう・・・・それ以上なにかしてもらうのが申し訳ないと思ったわけです。

 

しかし母は「あんた何言ってんの!」とさらに激怒。

 

結果的には、

母の知的で平和的で文化的な交渉によって、父がしぶしぶ了承する形になりました。

我が家は貧乏ですから、修学旅行費を払うのも一苦労です。

ところが・・・

私が20代に入ってから父の年収が発覚して私と母は驚きました。

 

なんと父の年収1000万を超えていたのです。

それなら贅沢は出来なくとも、普通の暮らしが出来るハズの金額。

 

なかなか定職に就かなかった父ですが・・・

結婚をして子供が生まれたことを機に真面目に働くようになったそうです。

 

そして、小さな会社ではありましたが順当に出世をしていったらしい。

そして数十年後には会社の役員にもなり、

年収はドンドン上がっていったとか・・・・

 

さて、ここで問題です。

年収1000万の父が、毎月入れていた生活費はいくらだったでしょうか?

 

A:50万     B:30万

C:10万円    D:5万円

 

・・・・・・はい、まぁ答えは『D』だったんですけどね。

(母が言うには、だいたい月に数万円って感じだったみたいです)

 

親の収入が多いからって・・・・

子が裕福に生活できるとは限らないんですよね。

 

私も母も、それまで全く父の収入など知りもしませんでした。

 

「なんでそんなに金があるのに貧乏なんだ!」

「なんで私が働かなきゃならんのだ!」と母はさらにさらに激怒。

 

私はすでに自立しておりましたから、我関せず。

と・・・・言いたい所ですが・・・

 

やはり引っ掛かる部分が多々ありました。

 

えっ・・・・だって・・・

父さんは本当はお金持ちだったにも関わらず、

「修学旅行費なんて出したくない!」と言っていたんだ・・とかね・・・

 

そんな風に思っちゃうじゃないですか?

我が子より『お金』が大事なのか?

つらい。

でも仕方ない。

だいたいの人間はお金よりも弱い。

 

しかしなぜ父は、それほどまでに金に執着したんだと思いますか?

私が思うに・・・・

父はずっと貧しい家庭で育ちました。

父の父もそのまた父も働かない人でしたから、貧乏。貧乏。貧乏。

 

金が無い生活になれていたハズ。

もともとは何も無くても平気だったハズ。

 

でも、結婚を機に真面目に働き始めた父の前には

これまでに考えられないような沢山のお金。

 

きっと・・・生まれて初めて給料という沢山のお金が手に入った時、

それを人に渡すのが嫌になったんじゃないかな?

 

「やった!これで好きなモノを好きだけ買えるぞ!」ってね。

ずっと貧乏生活で、欲しいものを我慢していたフタが

金を目の前にしてパカッととれて、吹き飛んでしまったんだろう。

でも仕方ない。仕方ないのです。

だいたいの人間はお金よりも弱い。

 

 

そんなこんなで私は、父と距離を置いて生きていきました。

父が修学旅行費を出すことを拒否したことが、

ずっと心のどこかに引っ掛かっていたからです。

 

それから数年後、実家に帰ると・・・・

母が液状化しておりました。

驚いて話を聞いてみると・・・・・

 

なんと・・・・・

父に『莫大な借金』があることが判明したそうなのです。

(なんてことだ・・・)

そう・・・・父の欲望はあまりに膨れ上がってしまい、

とても自分の給料だけではまかなえていなかったのです!

 

私が幼い頃からずっとずっと・・・・ずーーーーっと・・・・・

 

父は毎月の給料を使い切り、借金に借金を重ねて、

欲しいものをワガママに買い続けていたのです。

 

60近い夫婦の間に突如発覚した莫大な借金・・・

母はさぞショックだっただろう。そりゃ液状化しますわね。

しかし・・・・・

しかし・・・・私は逆に・・・・

父の莫大な借金を耳にして、気持ちがスーッと楽になりました。

 

(そうか・・父が修学旅行費の支払いを拒否したのは、

私よりお金が大事だったからじゃなかったんだ・・・・)

借金まみれで、本当にお金が無かっただけなんだ!

ってね。

 

・・・・・こうして、私と父の心の距離は少し縮まったのです。

ああ・・・・良かった~

借金があって本当に良かった~

 

サンキュー借金!!!!!

 

END